猫大好き且つFF大好きっ娘の気ままな日記
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『はおーん』
何かを訴えるような、甘く切ない声。
ふと足元を見る飼い主の目の前に、三色のふとましい猫が座っていた。
飼い主の心が焼け焦げてしまうほどの暑苦しい視線を送っているその猫の名は「さくら」
今年で6歳になる、福顔の雌猫である。
一見すると奥ゆかしい彼女だが、実は飼い主のスキを常に窺っている猫だ。
彼女は待っている。
飼い主がパソコン作業に移り、ガードが甘くなる…その瞬間を。
『んにゃっ』
後肢と背骨を屈曲させ、地を蹴る。
ふとましい身体とは対照的な、軽やかな一連の身のこなし。
そして彼女は占拠する。
飼い主の身体を。
普段ならば飼い主は彼女の意のままにその身体を差し出し、彼女の命に従っただろう。
しかし、今の飼い主には彼女の命を実行する余裕はない。
何故ならば、飼い主の将来を左右すると言っても過言ではない程の任務…卒業論文が、飼い主に課せられているからだ。
だが、猫である彼女は飼い主の苦労を理解するつもりはない。
猫と飼い主の戦争が始まった。
パソコン作業中且つ腰痛持ちの飼い主は、彼女の求める姿勢を長時間維持することが出来ない。
そして何より論文に追われ、彼女に奉仕する余裕がない。
それが彼女にとって気に入らないようだ。
『この私が、あなたの膝の上に座ってあげているのよ?』
とでも言いたげな視線を飼い主に送る。
飼い主はその視線を無視。
それどころか、膝の上に座っている彼女の尻を押して、膝の上から落とす等という愚行。
下僕であるはずの飼い主の「謀反」とも取れるその行動に、彼女は細やかながらも確かな嫌がらせを以て報復する。
彼女のとった行動。
それはパソコンを人質に取るという、最も簡単で、最も残忍なものだった。
急に身を屈めたかと思うと、彼女は美しく飛び上がり、パソコンのキーボードに腰を据えた。
パソコン画面に踊り乱れる不規則な文字列は、まるで呪いをかけられた人間の断末魔である。
パソコンとは相容れぬ関係ながらも、どうにかパソコンの機嫌を窺いつつ作業を進めていた飼い主は、一瞬にしてパニック状態に陥った。
慌てて彼女をパソコンから降ろし、パソコンのご機嫌を窺う。
良かった、どうやらパソコンの機嫌は損なわれていないらしい。
そう安心した直接、第2波の攻撃を受けた。
一度ならまだしも、立て続けに攻撃を受けたパソコンの堪忍袋の緒がさすがに切れた。
パソコンはいきなり意味不明なメッセージを出し、飼い主に精神的ダメージを与える。
飼い主はそのメッセージが何を意味しているのかわからず、己の選択がパソコンに重篤な後遺症を残すのではという恐怖に苛まれてしまう。
飼い主が「はい」「いいえ」のどちらを選択するかの決断しかねているその時、とどめの第3波の攻撃が迫る。
しかし、この彼女の攻撃を飼い主は寸でのところで食い止めた。
あと少し反応が遅ければ、パソコンに計り知れないダメージが刻まれていたかもしれなかった。
そして、ついに彼女は叱られる。
下僕である飼い主に、怒られたのだ。
この瞬間、人間は瞬間をその手に掴んだかのように思われた。
勝ち誇った表情で彼女を見る飼い主。
そこには、お尻を向けて新聞の上でこじんまりと座っている彼女の姿。
途端、飼い主の心が痛む。
そっと彼女の名を呼ぶと、顔をちらりと向けて
『にゃあ…』
と、消え入りそうに小さく、かすれた声で返事をした彼女。
飼い主は椅子を立ち上がり、彼女を抱き上げ、そして静かに彼女を己の膝の上に乗せた。
人間が猫に勝てる日など、永遠来ないのかもしれない。
続く
わけがない。
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